TRFという一世を風靡した音楽グループで、踊り続けて25年。メディアを通じてダンス一本で勝負し続けているSAMという存在は、ダンサー界のひとつの希望と言えるだろう。55歳になった今、“ダンサーとして舞台を作らなくてはいけない”使命に駆られて挑む「DANCE REPUBLIC ~The devotion~」は、一体どんな作品になるのだろうか。信頼関係の強いPInOと共に語ってくれた今回のインタビューでは、シンプルにダンスに魅了され、ダンスを愛し、ピュアな心でダンスと向き合い続けてきた、いちダンサー・SAMの生きざまを知ることができた。
- SAM
15歳で初めてDANCEのおもしろさを知る。単身NYへダンス留学。スタジオでクラシックバレエやジャズダンスの基礎を学ぶ。
一方でストリート・ダンス/ハウス・ダンスなどを修得。あらゆるジャンルのDANCEをバックボーンに持つ。Dance界ににおける活躍は周知の通である。TRFコンサートのステージング構成/コリオグラフはもちろん、SMAP、東方神起、BoA、V6その他多数のアーティストの振付、コンサートプロデュースを行いダンスクリエーターとして幅広い活躍をしている。また、ダンス・イベントのオーガナイザーや新人アーティストのプロデュースなど幅広い活動を行っている。近年、次世代ダンサー育成、リサーチの為、多くのダンサーオーディションを手がけ、自らレッスンも行っている。ダンスエンターテイメントの魁として、今後も幅広く活動し、ダンスシーンの創造と発展を目指す。
- PInO
80年代後半からブラックカルチャーに惹かれ、ニュージャックスイングを通じてストリートダンスに目覚める。1992年頃から「PINOCCHIO」を結成し、国内のあらゆるコンテストにて優勝をはじめ数々の入賞を果たす。現在は日本を代表するハウスダンスチーム「 ALMA」のメンバーとして日本国内だけでなく海外も含めゲストショーやワークショップ等で呼ばれ活躍している。
2008年にフランスで開催されているストリートダンスバトルの世界大会「JUST DEBOUT」にて優勝を果たし、事実上世界タイトルを獲得。その同じ年に、世界的に有名なストリートダンス最高峰のコンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT」でも優勝を果たす。2012年にはフランスで開催されているCIRCLE UNDER GROUNDというダンスバトルにおいて優勝。続いて同じく2016年に開催されたCIRCLE UNDER GROUND、そして2017年の台湾でのOCEAN BATTLE SESSIONで優勝と世界的なバトルやコンテストでも強さを見せている。HOUSEというジャンルでありながらも、そのスタイルの枠にとらわれない常にオリジナルであり続けるフリ ースタイルでの表現は現在も世界中のダンサーのみならず、 様々なジャンルのアーティスト達にも絶大な支持を得ている。 現在もメジャーシーンなどではアーティストの振り付けや演出、 またサポートダンサー等もしており、 アーティスト達からの信頼も高い。アンダーグランドシーンでは、 世界各地で様々なショーを展開しており、 年間100本以上の作品をクリエイトしている日本で一番稼働して いるダンサーとしても定評がある。
■自分たちがやってきたことを形にできるのが舞台。
TDM | : | 今回、舞台「DANCE REPUBLIC」を企画したきっかけは? |
TDM | : |
SAMさんの中で、舞台はどういう位置づけですか? |
SAM | : | 俺の中で、ダンサーとして舞台は一番やらなきゃいけないこと。自分たちがやってきたことを形にできるのが舞台だと思っています。舞台を作ればそのダンサーが何をやりたいのかがわかるから。 |
TDM | : |
今回はどんな舞台にしたいと思いましたか? |
SAM | : |
ディープなこともやりたいんだけど、ここからまた未来に向けてつながっていくような舞台の始まりにしたいと思っています。なので、今回はまず誰が見てもわかるようなものにしようと、ストーリーの中でダンスをしっかり見せたいと考えています。今回、演出・構成に岡村俊一さんを招いて、一緒に色々突き詰めて行きました。過去に一緒に仕事した時にとても話しやすくて、やりやすかったんです。最近のダンススタジオ発表会は、ストーリーがあるものもあるし、ナンバーの羅列だとしても、振付はうまいし、生徒も踊れるからそこそこ見応えがある。そことはしっかり差別化していかなくてはいけないし、何か別の一つの筋を通したものにしたいと思い、既成の曲も使うんですが、基本的にはTRFの曲を軸にしています。しかも、ヒット曲じゃなく、アルバムにしかない曲を中心に使っています。一番はダンスを見せたい舞台なので、しっかりとはじまりから最後の結論まで、しっかり、わかりやすく伝わるものを作っています。 |
■ダンサーのスターを作りたい。
TDM | : |
ダンスの見せ方としては、どんな風に描かれていますか? |
SAM | : |
ダンサーのスターを作りたいというのも今回の目的のひとつです。昔から知り合いのPInOとTATSUOはまず今回一緒に踊りたいと思ったし、世界で勝負している2人をはじめ、今回共演するダンサーたちが一般的に有名になってくれたらいいなと思っています。 |
TDM | : |
SAMさんにとってPInOさんはどんな魅力がありますか? |
SAM | : |
PInOにはPInOにしか出せない世界観、味がある。パッションがあるし、音の捉え方、跳ね方が日本人にはいないし、それが見ていて気持ちいい。キレイに踊れるダンサーはたくさんいるけれど、PInOは本当にオリジナルだなと思います。 |
PInO | : |
SAMさんと初めてお話した時は、shibuyaNUTSで踊った後にバーカウンターの前にSAMさんがいて、「ダンス良かったよ。今度仕事をお願いしたい。」と言われて、ものすごく嬉しかったのを覚えています。 |
SAM | : |
あ、そうだったかも。最初は噂で、「PInOってハウスダンサーがいいらしい」って耳にしたり、動画も見たり、当時バックダンサーをしてくれてたNAOやTAKAからも「PInOさんはやばいですよ」と聞いて、1回会ってみたいと思っていました。PInOに「TRFのバックダンサーやってくれるかな~」とダメもとで頼んでみたら、やってくれることになり、実際にやってもらったら、とてもしっくりきたんです。俺が思ってたよりもソフトだったし、もちろんPInOはストリートマインドがベースなんだけど、TRFへのリスペクトを持ってくれてて、人間関係には柔軟に構えて、対応してくれました。 |
TDM | : |
PInOさんにとってSAMさんはどんな存在ですか? |
PInO | : |
最初にSAMさんを見たのはMEGA-MIXでビバップのショーをしていた時。あれが衝撃的すぎて、それから憧れの存在になりました。 |
SAM | : |
あ~そのショーは覚えてる。1992年の第1回目のMAIN STREETの時だ。あの時はETSUとCHIHARUは教え子のタンポポとジャズのネタで出てて、俺はHORIE、GOTO、YUKI、SANCHEの5人で、大トリで、押しに押して朝方の6時くらいにビバップをやったんだよ(笑)。 |
PInO | : |
その時以来憧れているSAMさんから、まさか声をかけてもらって、お仕事させてもらえると思わなかったです。しかも、メジャーな仕事はほとんどやっていなかったので、その最初がTRFになるとは (笑)。 |
SAM | : |
こちらこそお願いしたかったし、お互い、良いタイミングだったんだね。 |
■ハウスなら自分が今までやってきたものを入れられる!
TDM | : |
MEGA-MIXを経て、TRFとなり、一世を風靡していくわけですが、波に乗っていく、売れていく感覚というのはどんなものでしたか? |
SAM | : | TRFでデビューした時に、実はデビューした感覚はありませんでした。MEGA-MIX時代は「歌手の後ろでは踊りたくない」と変なこだわりを持っていましたし、小室哲哉さんに「オリジナルの曲で踊ろう」とに仕事を頼まれたとき、MEGA-MIXに曲を作ってくれるのかなと思ったら、ボーカルがいたわけです。その結果、脱退したいメンバーも出てきて、今の3人が残ることになりました。 |
TDM | : |
なぜSAMさんは残ろうと思ったんですか? |
SAM | : |
ん~、一応、MEGA-MIXのリーダーだったから(笑)。HORIE、GOTO、YUKIは、後のSOUND CREAM STEPPERSでやるようなことがやりたかったんだろうし、SANCHEはもっとジャズダンスを追求したかったんだと思います。結果、男1人女2人の今までやったことのないバランスでやることになり、TRFというアーティストが売れる保証もない中で、どうしていけばいいのか戸惑いましたね。1994年「BOY MEETS GIRL」が売れるまでは、クラブツアーでショータイムしていたので、なんだかバイト感覚というか、実際、事務所とは契約していませんでした(笑)。 |
TDM | : |
いろんなジャンルを踊ってきたSAMさんの中で、ハウスがベースになった理由はありますか? |
SAM | : |
ヒップホップ、ロッキン、ポッピン、ブレイキンをやって、どんどん新しいものは取り入れて、ビバップも飛びついたけど、自分のやりたいイメージは常にあるのに、何かしっくりきていないとフラストレーションがずっとありました。一時期、1986年くらいにNYで”フリースタイル”というジャンルのダンスがありました。ブレイキンが下火になってきた時に、プエルトリカンたちを中心にクラブでやっていたダンスで、俺はあれがハウスの前身だと思ってるんだけど、複雑なステップを踏みながら、ターンやシャチを混ぜてくようなダンスでした。それを日本に持ち帰って、ブレイキンと混ぜながらやっていましたが、結局フリースタイルは流行らずに、時代はニュージャックスィングになっていきました。その後、KOJIが新宿のセンチュリーで、「今NYではこういうのが流行ってました」と跳ねていたのが俺が初めて見たハウス。それから、1991年にまたNYに行った時に、shelterでEJOEを見て、「これはかっこいい!」と衝撃を受けました。ハウスなら自分が今までやってきたものを全て取り入れられると感じたんです。だから、一番大きな影響はEJOE。あの流れるようなダンスと身体能力を見た時、衝撃でしたね。 |
■誰でも楽しめるものを目指したいけど、軽いものになってはいけない。
TDM | : |
25年間ハウスシーンを見てきて印象に残っていることはありますか? |
SAM | : |
日本だと最初はTHE ROOTS。たくさん遊んだし、KOJIとは本当に毎晩一緒にいました。KOJIとの出会いは、1985年ごろ、俺が20代前半の時に、後輩のOHJIから「新宿にトイレットペーパーを巻いてコンテストに出てたやつがいたんですよ!」と言われていたのがKOJI。今では考えられないでしょ(笑)。それからKOJIはBOBBYたちとニュージャックスィングをやって、テレビ番組「ダンス ダンス ダンス」「DADA」※で何度か共演したけど、一緒に踊ることはなかった。それから、大勢で食事をする機会があり、KOJIから「SAMさんって思ってたより良い人なんですね。こんなに話せると思いませんでした。」と話したのがきっかけで仲良くなりました(笑)。当時、俺はものすごく敵が多かったし、俺自身が、あえて周りに敵を作るようにしてたから。その後は、テレビ東京で「RAVE2001」を始めて、PYROとかSo Deepとかハウスチームとドレッドで踊るやつが増えていきましたね(笑)。それからALMAが出てきて、PInOと出会うことになります。※「ダンス ダンス ダンス」「DADA」:どちらも1990年初頭、第2次ダンスブームの時にOAされていたTV番組。天才・たけしの元気が出るテレビ!!のコーナー「ダンス甲子園」も含まれる。 |
PInO | : |
NYでKOJIさんがハウスを見つけて、アンダーグラウンドに広めた人と、メディアを通じてハウスを見せつけたSAMさん。俺はそんなすごい2人と出会えてラッキーだなと思います。 |
TDM | : |
最近のダンスシーンはどう見ていますか? |
SAM | : |
最近おもしろいのはバトル。ハウスに関わらず、全ジャンル熱くなってるし、おもしろいです。俺も元々ブレイカーだから、バトル精神が嫌いじゃない。勝つために技を磨くし、新しい技も生まれるし、どのジャンルもバトルのおかげで進化を遂げているように感じます。 |
TDM | : |
でも、今回はバトルではなく舞台公演をやる。何か理由があるんでしょうか? |
SAM | : |
バトル含めて進化したダンスを一般の人にもわかる形で残していかなくてはいけない、それが舞台だと思います。あとは、欧米だと劇場にエンターテイメントを観にいく時、いつもよりドレスアップして、帰りに美味しいもの食べて楽しい時間として過ごしていて、あの習慣はとても素敵だなと思っていて。それが日本にももっと根付いて欲しいと思っています。ダンス関係者以外の人にも観に来てもらえるものを考えたいですね。 |
TDM | : |
SAMさんの中で、一般の人に向けてわかりやすくすることは、昔から意識されているんですね。 |
SAM | : |
そうですね。誰でも楽しめるものを目指したい。だけど、それが軽いものになってはいけない。内容がしっかりしているんだけど、わかりやすいもの、かつ、ゆくゆくはディープなものに落とし込みたい。そのさじ加減が難しいですね。その為にも、いいダンサーを有名にしたいし、SNSやメディアをうまく使っていかなきゃと思うし、機会があればまたダンス番組をやってみたいですね。 |
TDM | : |
今回の舞台を作ることになった時、まずどんな作業から始められたんですか? |
SAM | : |
まずは、演出家の岡村さんと話しながらストーリーを作りました。誰もが知ってるものをモチーフにしたかったので、日本昔ばなしをベースにしています。ただ、一見それはわからなくて、よくよく見ると「あ、あの話かな」とわかるような作りになっています。言葉も発さず、文字も出さず、俺も含めて演技がそこまで得意じゃないので、結構大変です(笑)。そういう面で、TATSUOは演じるのが上手いんですよね。Blue Printでの実力が表れてますし、演じることがTATSUOには向いてるんだと思います。最近はそんなダンサーが増えつつあるし、伝える為に演じることやセリフを発することが必要であればどんどんやったほうがいいと思います。 |
TDM | : |
普段、振付をするときはまず何から考えますか? |
SAM | : | まず、曲選びからです。毎晩新しい音を掘ってます。そして、インスピレーションは他のジャンルから受けることが多いです。昔踊っていたからか、今でも筋肉を弾いたり、タットを入れたりするのが好きです。あえてハウスの動画はあまり見ないですね。バトルは国内外問わず、他のジャンルも見ます。 |
TDM | : |
最近気になるダンサーはいますか? |
SAM | : |
最近気になってるのはフランスのICEEっていうヒップホッパー。新しいことをやってるんだけど、ベースが90年代のNYスタイル、ELITE FORCEの匂いを継承してて、好きです。 |
■もっと基礎トレーニングを。
TDM | : |
現在55歳の現役ハウスダンサー、おそらく国内最年長だと思います。何かこれまでの身体の変化やアドバイスがあれば、後輩ダンサーたちに教えていただけますか? |
SAM | : |
まず、45歳まではそんなに鈍りを感じなかったんですけど、45歳を過ぎてからキレやスピードがなくなりました。筋力が衰えて、できない技が増えてきたのが、その時期。だから、それを認識した上で踊っていかなきゃいけない。さらに、3年ほど前に右肩を壊して、マックスができなくなって、シャチもギリギリ。フロア中心で見せてた構成をステップ中心に組み立て直さなくちゃいけない。それまで何十年も染み付いてた流れを、丸々変えなくてはいけなくて、あれはキツかったですね。今は立ち踊りで、いかに疲れずに踊るかを意識してます。何か事故とかはない限り、このままあと5年は普通に踊れる感覚は、ありますね。若いダンサーたちには、もっとトレーニングをしてもらいたいなと思います。ナンバーや、そのためのリハにはたくさん出てるけど、リズム取り、筋トレ、ストレッチとか基礎のトレーニングを心がけてほしいです。パワーがあって器用に踊れる子はたくさんいるけれど、いまいちパンチが無かったり、しなやかさが足りない。ストリートマインドは絶対に欲しいから、もっと貪欲に身体を作って欲しいです。 |
PInO | : |
確かに。今の子たちはすごく揃うし、 |
TDM | : |
今、踊りに対するモチベーションにつながっているものはなんでしょうか。 |
SAM | : |
若い頃は、新しい動きを入れたくて、それを見せたかったんだけど、今後はそれをそぎ落として、シンプルにしていきたいんだと思います。でも、攻めたい自分もいるんですよね(笑)。その気持ちは持っていたいし、今でも攻めてるSEIJI(坂見誠二)くんが先輩にいるから、俺も攻め続けていきたいですね。 |
■アーティストよりは、ダンサーとして在り続けたい。
TDM | : |
ここまでお話をお聞きしてきて、TRFとして有名になったアーティストでありながらも、SAMさん自身はずっと純粋なダンサーのマインドをお持ちなんだなと感じました。 |
SAM | : | うん、俺自身はアーティストというよりは、ダンサーとして在り続けたい。そこにはプライドがあります。そして、それはETSUもCHIHARUも同じだと思う。才能のあるダンサーという表現者はこれからともっと出てくるだろうし、そういう存在を世の中に出していく役目が自分にあると思っています。だから、誰よりも早く世界を飛び回るようになったPInOとTATSUOという存在を世の中に伝えたいし、才能のあるダンサーたちがダンサーとして食べていけるようにしていきたいです。 |
TDM | : |
では、最後に今回の見所と、今後の展望を教えてください。 |
SAM | : |
ダンスの一番かっこいいところ、楽しいところがストレートに見れます!絶対見てて飽きないはずなので、是非見に来てください!また、個人で社団法人「ダレデモダンス」を立ち上げました。高齢者の方などダンスを知らない人でも生活の中にダンスを取り入れて、生きがいや健康増進に役立ててもらう活動をしています。 最近は「DANCE REPUBLIC」でダンスのコアな部分と向き合いつつ、「ダレデモダンス」で、グローバルに捉えていく二本柱で考えています。それらがいい意味でつながっていくといいなと思います。どちらの活動にもぜひ注目して欲しいです。 |
TDM | : |
SAMさんへのイメージが一新されるお話がお聞きできました。舞台楽しみにしています!本日はありがとうございました! |
interview by AKIKO
’17/09/14 UPDATE
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